2016.04.21 01:05海に降る雪 3(全3回) ディーゼルカーは、ギイギイと音を立てながら駅に停まった。ドアが開く。待合室どころか駅舎もない小さな駅だった。僕達がプラットホームに降り立つと、ディーゼルカーはドアを閉めて足早に去って行った。僕達だけが、ポツリとプラットホームに取り残されていた。「こっち」 そう言って、彼女はプラットホームから続く短い階段を下り始めた。僕も続いて歩き出す。その先は、両脇を畑で挟まれた細い道だった。特にどちらから何か...
2016.04.19 01:15海に降る雪 2(全3回) 遠くから、ディーゼルカーの音が聞こえてきた。考え事をしているうちに、もう三十分が経っていたようだ。プラットホームに出ると、さっき去って行った列車と同じく、オレンジ色のディーゼルカーがやって来た。開いたドアからディーゼルカーに乗る。すぐに列車はエンジンをうならせて動き出した。その音は、まるで雷鳴のようだった。ボックス席の並ぶ車内には、誰も乗っていなかった。そう思ったけれど、目を凝らして前の方をよく...
2016.04.18 02:04海に降る雪 1(全3回) 小さなローカル駅から、一両のディーゼルカーが去って行った。それに乗ろうかどうしようか悩んでいるうちに、ガラガラとエンジン音を残して、去って行ってしまった。次の列車までの待ち時間は、三十分といったところだ。たったそれだけの時間だけれど、今の僕には果てしなく長く感じた。それぐらい、全てがどうにもならなかった。 いつだってそうだった。話しかけたい人に話しかけられず、そうこうしているうちにその人は僕の目...
2016.04.15 12:38買ってみた!公募ガイド!買ってみたと言っても、時々買ってるんですけどね(笑)今月号は特集も公募もなかなか興味のそそられるものばかり。文章も写真も、取り組んでみたい題材がたくさんありました。もうすでに文章を一つ書いてしまいましたよ(笑)後は元新聞記者の知人に見せて手直ししてもらうだけ。賞金30万円!他にも、ガラにもなくちょっと長めの小説を書いています。原稿用紙100枚を目標に。うん、絶対無理だな(笑)
2016.04.14 06:02海の歌 3(全3回) キラキラ輝く海。遠くの沖を、一艘の漁船が通り過ぎて行く。それはそれで、どこへ行くのか気になる。ぼんやりとそんなことを考えていると、やおら彼女は立ち上がり、何の前触れもなく歌い始めた。「海は広いな大きいな……」 澄んだ声で歌いながら、彼女は漂うようにこちらへ近づいてくる。この時、初めて彼女の顔を正面からまともに見た。整った顔立ちからは、何か言葉にできない幸福感が見受けられた。〈何がそんなに幸せなの...
2016.04.13 01:48海の歌 2(全3回) 次の駅が終点だった。ここも古びた駅舎のある小さな駅だ。プラットホームに降り立ち、まばらな人影と共に駅舎の中へと入って行く。その人影の中には、もちろん彼女もいた。 天井から裸電球のぶら下がる駅舎の中を通り、駅前に出る。遠くから漂って来る潮風が心地よかった。その風がやって来た方向に海があるのだと思う。本当かどうか分からないけれど、そんな気がしたので、そっちへ行ってみることにした。 細い路地が縦横無尽...