海に降る雪 3(全3回)
ディーゼルカーは、ギイギイと音を立てながら駅に停まった。ドアが開く。待合室どころか駅舎もない小さな駅だった。僕達がプラットホームに降り立つと、ディーゼルカーはドアを閉めて足早に去って行った。僕達だけが、ポツリとプラットホームに取り残されていた。
「こっち」
そう言って、彼女はプラットホームから続く短い階段を下り始めた。僕も続いて歩き出す。その先は、両脇を畑で挟まれた細い道だった。特にどちらから何かを話すということもなく、その道を二人でトボトボと歩いて行く。五分ぐらい歩くと大きな道路に突き当たった。その先には、砂浜と海。彼女は道を渡り、砂浜をゆらりゆらりと歩いて行く。僕もその後ろを歩く。
〈このまま海へ入って行くのだろうか〉
そう思ったその時、彼女は立ち止まった。そして、スッと前に手を差し出す。一片の雪が、その手に舞い降りて来た。すぐに手の熱で溶ける。
「私も死のうと思ってた」
手のひらで溶けた雪を握り締め、彼女はかすれた細い声で言う。そして、こちらを向いてニヤリと笑うと、今の声とは正反対の明るい声でこう続けた。
「死んだつもりで、一緒に生きてみない?」
そう言われて驚いた。その笑顔の裏に、何が隠されているのだろうか。しかし、それはそれで楽しいのかなと、ふと思った。そう思うと、失うものが一つできてしまった。
〈生きなくては……〉
海に降る雪が、少しずつ強くなってきた。
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