Kazu

1985年2月、東京都生まれ。
写真家と作家を目指して生きています。
宜しくお願いします。

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奥多摩旅行記 その5(全18回)

第4章 プラットホームにトイレがあったので、奥多摩行きの列車に乗る前に寄って行こうと思ったが、乗り換え時間がわずかだったので諦めた。30分もすれば奥多摩駅に着いてしまうから、何とかなるだろう。 奥多摩行きの列車は4両編成だった。定刻通りに青梅駅を発車した。いかにもローカル線という長さの列車。中央線と同じ車両を使っているので、トイレはついていなかった。曲がりなりにも観光路線なのだから、休日ぐらいトイレのついた車両を走らせてもいいと思うのだけれど。そんな話をMさんとしながら列車に揺られる。宮ノ平、日向和田、二俣尾の各駅を経ると、辺りは次第に山深くなってくる。Mさんは学生時代、この辺りに臨時列車の撮影をするために足しげく通ったらしく、青梅駅から奥多摩駅の間のほとんどの駅で下車したことがあるという。当時のことを懐かしそうに語っているMさんの横で、僕はそろそろトイレが我慢できなくなっていた。 二俣尾駅を出て、もうそろそろで次の軍畑駅に着くという所では、高い所を走る大きな鉄橋を渡る。さっきから時々、トンネルもくぐっているので、だいぶ山の方まで来てしまった。綺麗な景色だが、今はゆっくり楽しんでいる余裕なんてない。 列車が進むにつれて、次第に人里から離れてくる。この辺りの地酒である〝澤乃井〟の製造・販売元、小沢酒造の最寄り駅の沢井駅を過ぎ、列車は御嶽駅に到着。この駅は武蔵御嶽神社や御岳山などへのハイキングの入り口とされている。現在、御岳山にあるケーブルカーは改修工事のため、3月末まで運休しているようだ。それでも、大きなリュックサックを背負ったハイカーがたくさん降りて行き、4両編成の列車内は、静かになってしまった。 御嶽駅を出ると、列車はさらに山の中へと入って行く。山並みだけではなく、多摩川の渓谷風景も見られる。曲がるのが大変そうな急カーブも増えてくる。Mさんと談笑を交わしつつ、車窓からの綺麗な風景を眺ながら、トイレに行きたい気持ちを紛らわせる。新しい近未来的なデザインの電車は、きっと山の風景には似合っていないだろう。ただ、ドアの上には液晶モニターがあって、現在地から各駅への所要時間が表示される。これは助かる。一つ一つ駅に止まるごとに、奥多摩駅までの数字が小さな数になっていく。待ち合わせ場所だった拝島駅を出てから約一時間で奥多摩駅にたどり着いた。 急カーブにプラットホームが設置されている奥多摩駅は、登山の玄関口と観光地の玄関口という雰囲気を兼ね備えているように思える。階段を下りた先の駅舎も、山小屋風だ。駅舎を出て左側に観光用の大きな公衆トイレで用を済ませる。何とか間に合った。 駅舎の前のバス乗り場には、日原鍾乳洞近くの東日原へ行くバスが止まっていた。奥多摩駅から手軽に行ける観光スポットは、日原鍾乳洞か奥多摩湖が代表的。東日原までの運賃は460円と少し高かったが、せっかくなので乗ることにした。すでにバスの後ろの方には家族連れグループが乗っていた。一番前の展望席とも言える席に座る。Mさんはその向かい側に。しばらく待つと、運転手さんともう一人、制服を着た人が乗ってきて、バスは動き出した。いよいよ奥多摩観光が始まる。

奥多摩旅行記 その5(全18回)

 八王子行きの列車が去ると、ホームドアのバーが静かに下降した。近未来的な光景だ。隣の線路に止まっていた回送列車の写真も撮影して、青梅線乗り場へと移動する。これから乗る列車の来る乗り場には、まだ立川行きの列車が止まっていた。それが去ると、向かいの乗り場には五日市線の武蔵五日市行きの列車がやって来た。ここを行き交う青梅線や五日市線の列車は、全て中央線と同じ形式のステンレス製の新しい電車だ。中央線系統の代名詞とも言えるオレンジ色の電車は、もう随分と昔に過去帳入りしてしまった。今では奥多摩の大自然の中をステンレス製の電車が行き来するという不釣合いとも思える光景が展開されている。 武蔵五日市行きの列車が発車すると、その後を追うようにしてこちらの乗り場に青梅行きの列車がやって来た。立川駅から来た列車なので、やや混み合っていた。それでも、何とか席を確保する。青梅線に乗るのも久しぶり。最近では、昨年、横田基地の近くを歩いた際に福生駅から拝島駅まで乗ったことがある。その3年ほど前には、ちょっとした口車に乗せられて、ある企業を見学するために小作駅まで行ったことはあるけれど、そこから先を走るのはいつ以来なのか、全く覚えていない。 青梅行きの列車は、定刻通りに拝島駅から発車した。近況を語り合いながら列車に揺られる。車窓からの風景は、郊外の住宅地。そんな中を進んで行くと、やがて列車は小作駅に着いた。「ここまで通勤するのは大変そうだな……」 企業見学のためにここまで来たことがあると話すと、Mさんはそう言った。 拝島駅から奥多摩駅までは、30分もあれば行けてしまうという印象があった。ところが、事前に時間を調べてみると1時間近くもかかってしまう。随分と遠くへ行くこととなる。この小作駅まで来るのに、10分ほど要している。ここから青梅駅までは、さらに10分ほどかかる。列車は相変わらずの郊外という感じの風景の中を行き、河辺、東青梅の両駅に止まって終点の青梅駅に到着した。ここで奥多摩行きの列車に乗り換える。すでにその列車は向かいの乗り場に停車しており、静かに発車の時を待っていた。

奥多摩旅行記 その4(全18回)

第3章 Mさんはもう来ているだろうか?駅舎から待ち合わせ場所のコンビニが見えたけれど、Mさんの姿は見えなかった。だが、姿が見えなかっただけのようで、実際に行ってみると背が高くヒョロヒョロした感じの男性いた。Mさんだ。そちらに向かって手を振ったけれど、気がつかない。辺りの風景の撮影に熱中しているようで、僕がコンビニの前でタバコを吸い終えたところで、ようやく僕に気づいた。 口々に久しぶりと言いつつ、コンビニの裏手にある線路の撮影に向かう。近くに、電化されていない単線の線路がある。拝島駅から出ている在日米軍横田基地への線路だ。京浜工業地帯にある米軍施設から来たジェット燃料を輸送するための貨物列車が通る。タンク式の貨車が用いられることから、鉄道ファンの間では〝米タン〟と呼ばれている。軍事関連の列車という特性上、ダイヤは明かされていない。すぐに列車が行き来する様子はなく、まるで廃線跡のような雰囲気を醸し出している。撮影している踏切の脇には、英文も併記されている立ち入り禁止の看板があった。 線路の撮影を終え、コンビニで買い物をする。缶チューハイが買いたかったけれど、見当たらない。仕方がないので、缶のハイボールを買う。店の前でタバコを吸いながらハイボールを飲む。「アルコール消毒か?」 Mさんが言う。どこでそんな酒飲みが言うような言葉を覚えたのか。風邪をひいている時のハイボールはまずい。 一服と〝アルコール消毒〟をしながら、Mさんと談笑を交わす。今朝、名古屋からの高速バスで東京に着き、高田馬場駅からの急行列車でここまで来たらしい。Mさんが着いたのは、僕が着く10分ほど前だったようだ。急行列車が混んでいる様子に、さすが東京だと驚いたという。 さて、一服と〝アルコール消毒〟が終わったので、そろそろ奥多摩へ向かおう。まずは青梅行きの列車に乗る。Mさんと合流するのが早かったため、1本前の列車に乗れそうだったが、それでは何だかせわしないので、予定通りの列車で行くことに。15分ほど時間が空く。せっかくだから八高線の列車の撮影をしたいとMさんが言う。八高線乗り場へ行くと、八王子行きの列車が停車していた。 この駅の八高線乗り場には、線路への転落防止用のホームドアが試験的に設置されている。ホームドアもいろいろあるが、この駅にあるのは列車が来ていない時は乗車口の辺りだけ3本のバーで仕切られており、列車が来た時にそれが上昇する仕組みのタイプだ。面白いものが見られたけれど、列車だけの写真を撮ることはできなかった。