奥多摩旅行記 その5(全18回)
第4章
プラットホームにトイレがあったので、奥多摩行きの列車に乗る前に寄って行こうと思ったが、乗り換え時間がわずかだったので諦めた。30分もすれば奥多摩駅に着いてしまうから、何とかなるだろう。
奥多摩行きの列車は4両編成だった。定刻通りに青梅駅を発車した。いかにもローカル線という長さの列車。中央線と同じ車両を使っているので、トイレはついていなかった。曲がりなりにも観光路線なのだから、休日ぐらいトイレのついた車両を走らせてもいいと思うのだけれど。そんな話をMさんとしながら列車に揺られる。宮ノ平、日向和田、二俣尾の各駅を経ると、辺りは次第に山深くなってくる。Mさんは学生時代、この辺りに臨時列車の撮影をするために足しげく通ったらしく、青梅駅から奥多摩駅の間のほとんどの駅で下車したことがあるという。当時のことを懐かしそうに語っているMさんの横で、僕はそろそろトイレが我慢できなくなっていた。
二俣尾駅を出て、もうそろそろで次の軍畑駅に着くという所では、高い所を走る大きな鉄橋を渡る。さっきから時々、トンネルもくぐっているので、だいぶ山の方まで来てしまった。綺麗な景色だが、今はゆっくり楽しんでいる余裕なんてない。
列車が進むにつれて、次第に人里から離れてくる。この辺りの地酒である〝澤乃井〟の製造・販売元、小沢酒造の最寄り駅の沢井駅を過ぎ、列車は御嶽駅に到着。この駅は武蔵御嶽神社や御岳山などへのハイキングの入り口とされている。現在、御岳山にあるケーブルカーは改修工事のため、3月末まで運休しているようだ。それでも、大きなリュックサックを背負ったハイカーがたくさん降りて行き、4両編成の列車内は、静かになってしまった。
御嶽駅を出ると、列車はさらに山の中へと入って行く。山並みだけではなく、多摩川の渓谷風景も見られる。曲がるのが大変そうな急カーブも増えてくる。Mさんと談笑を交わしつつ、車窓からの綺麗な風景を眺ながら、トイレに行きたい気持ちを紛らわせる。新しい近未来的なデザインの電車は、きっと山の風景には似合っていないだろう。ただ、ドアの上には液晶モニターがあって、現在地から各駅への所要時間が表示される。これは助かる。一つ一つ駅に止まるごとに、奥多摩駅までの数字が小さな数になっていく。待ち合わせ場所だった拝島駅を出てから約一時間で奥多摩駅にたどり着いた。
急カーブにプラットホームが設置されている奥多摩駅は、登山の玄関口と観光地の玄関口という雰囲気を兼ね備えているように思える。階段を下りた先の駅舎も、山小屋風だ。駅舎を出て左側に観光用の大きな公衆トイレで用を済ませる。何とか間に合った。
駅舎の前のバス乗り場には、日原鍾乳洞近くの東日原へ行くバスが止まっていた。奥多摩駅から手軽に行ける観光スポットは、日原鍾乳洞か奥多摩湖が代表的。東日原までの運賃は460円と少し高かったが、せっかくなので乗ることにした。すでにバスの後ろの方には家族連れグループが乗っていた。一番前の展望席とも言える席に座る。Mさんはその向かい側に。しばらく待つと、運転手さんともう一人、制服を着た人が乗ってきて、バスは動き出した。いよいよ奥多摩観光が始まる。
0コメント