まっすぐ 2(全2回)
モヤモヤした気分を抱きながら線路を覆う落ち葉を踏みしめる度に、だんだんと分かり始めてきたことがある。僕はただ、彼女に話しかけたいだけなのかも知れない。その理由を今は考えないことにした。考えても仕方がない。今は彼女に置いてけぼりにされないように歩くとで精一杯だった。
どういうわけだろうか。前を行くあの後ろ姿が、次第に愛おしく思えてきた。その理由をあれこれ考えるよりも、勇気を出すことの方が先だ。きっとほんの少しのきっかけさえあれば、何かが変わるはず。何かが起きないだろうか……
後ろ姿を追いつつ、考えてはみたが、疑問に対する答えは、なかなか見つからない。ただ、分かったことは、考え事をしながら歩くのはよくないということ。つまずいて転びそうになり、
「わっ!」
と、大きな声を出してしまった。誰だって振り向いてしまうようなほどの大声だった。それが彼女を振り向か立ち止まらせた。こちらを振り向く。そしてまた、あのふわりとした笑顔を浮かべた。彼女は体をくるりとこちらへ向けると、ゆらりゆらりとした足取りでこちらへ近づいて来る。僕の目の前で立ち止まった。
「気をつけないと、危ないですよ」
変わらぬ笑顔のまま、彼女は静かにそういった。どういうわけか、その姿は神々しい。言葉を返すことができない。何か言わなければいけないと思ってはいるのだけれど……
「行きましょう」
彼女は言う。あまりの急展開に僕はすっかり気が動転してしまい、その場から動くことができなかった。だが、せっかく二人で並んで歩くチャンス到来。この好機を逃すわけにはいかない。今こそ、勇気を出す時だ。にわかに体が震えている。これが武者震いか?
「はい……」
ようやく振り絞って出したその一言は、恐らくは聞き取ることさえ難しかったかも知れない。だが、その一言のおかげで、僕は大きな一歩を踏み出すことができた。気がつくと、彼女と並んで歩いていた。こうして女の人と並んで歩くなんて、いつ以来の話だろうか?忘れていた気持ちを思い出すことができた。ほんの少しの勇気が忘れていたこのときめきを思い出させてくれた。
僕達は、どこまでもまっすぐ続く線路の上を、肩を並べて歩いた。
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