大草原の歌 2(全2回)

〈どうして……?〉

 言葉が出なかった。何の巡り合わせだろうか?ただ驚くだけだった。それでも、ここであのひとに会えたことが、抱えていた自分の悩みや迷いを払いのける〝決定打〟となった。

〈僕の好きな人は、目の前にいる!〉

 そう思った時、あのひとは大きな翼を広げてまた空へと飛び立って行った。去り際にあのひとは一瞬だけ振り向いた。笑っていた。その笑顔が、矢のように僕の心に突き刺さった───

 ガタンガタン、ガタンガタン……

 どうしたことだろうか。滅多に列車の中で寝ることのない僕が、気がつくと眠りの中にいた。よっぽど疲れていたのだろう。列車が鉄橋を渡る音で目を覚ました。今までの光景は、全て夢だったのである。

しばらく鉄橋を渡る音が続いたので、列車は大きな川を渡っているようだった。ちょうど目に入った広い河原には、青々とした草がたわわに生い茂っていた。まるで大草原だった。あの夢を思い出す。

 列車は次の駅に着いた。僕は迷わず列車を降りた。何の根拠もないけれど、あの河原を目の前で見たら、あの河原でそよ風に吹かれたら、あの夢の中で出た答えが〝確信〟に変わるような気がしたからだ。

 そこは高架橋の上にある綺麗な駅だった。コンコースを通って改札口を出ると、駅前には工事用のフェンスが目立っていた。どうやら、この駅は高架化されて間もないようだ。すぐ近くに大きな道路があった。この道を行けば、大草原のあるあの川へ行ける。何となくそう思い、歩き始めた。

 歩き始めてから五分と経たないうちに、大きな橋に出た。橋の上からは大河がとどまることなく流れているのが見える。太陽は少しずつ西に傾きつつある。その陽光を浴びて、大河はキラキラと輝いていた。横には、広々とした河原。草がこれでもかというぐらいに生い茂っている。それを見た瞬間、あの夢が頭の中をよぎった。

〈あのひとに会えるだろうか?〉

 そう思った時には、自然に足が動き始めていた。もちろん、大草原に向かって。夢の中と同じく、ワクワクした気分だ。

 橋を渡り終えると、河原に沿って続いている土手の道と交差していた。そこを歩くのも悪くないと、大草原を眺めながら歩いて行く。その先に鉄橋があった。これはさっき列車で渡った鉄橋だ。くぐり抜けると野球のグラウンドがあった。何人かそこに人がいて、野球ごっこをしていた。マウンド上のピッチャーが白球を投じる。対峙するバッターは、見事な空振りをした。

 その様子を見ながら歩いていると、いつの間にか再び大草原が眼下に広がっていた。立ち止まり、心地よいそよ風に吹かれながら風景に見入る。あの夢の風景とよく似ている。これが僕の求めていた風景かも知れないと思った。いつからかずっとこんな風景が見たかった。こんな形で憧れていた風景を見られるとは思わなかった。

 どれだけの間、その風景に見入っていただろう?先へ行くか、さっきの駅へ戻るか悩んでいた。その時、大草原に一羽の大きな白い鳥が舞い降りた。あの夢の中でも、似たような光景があった。

〈あれがあのひとだったらな……〉

 戻ろうときびすを返したその時、あのひとが目の前にいた。そこで微笑んでいた。笑顔を見た瞬間に、夢の中で心に突き刺さったまま抜けなくなったあの笑顔を思い出した。

 今度は、夢ではないようだ。

Kazu-Photo-Novel

主にKazuが撮影した写真と執筆した文章を載せています。 ゆっくりと楽しんでいってください。

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